登壇者
プロフィール

徳永健Ken Tokunaga

吉祥寺のデザイン会社「クラウドボックス」の代表取締役
クリエイティブディレクター、ご当地かるたプロデューサー。
2019年、吉祥寺に事務所を構えて10年を迎えたのを機に、吉祥寺の魅力、名所・名店、吉祥寺あるあるを描いた ご当地かるた『吉祥寺かるた』を制作。大切にしているものは「愛と自由と好奇心」

二川圭祐Keisuke Futagawa

BeYond Labの主催者の一人で小学校教員。
「大人が学びを楽しめば子供も学びを楽しむ」ことをモットーに学び場を運営。
妻と娘をこよなく愛し「ファミリーファースト」を掲げる二児のパパ。

米澤渉Wataru Yonezawa

阿波踊り集団『寶船(たからぶね)』のリーダー。
4歳より、徳島県出身の父親の影響で阿波踊りを始める。
2012年、寶船の運営として一般社団法人アブチーズ・エンターブライズの設立に携わり、 プロデューサーに就任。その他、Webクリエーター、ミュージシャンなど、多彩な分野で活躍

【目次】

はじめに

二川

 皆さん、こんにちは。今日はお集まり下さいまして、ありがとうございます。僕は、BeYond Labの二川と申します。本日の進行とスピーカーの一人として参加させていただきます。本日は、初めて吉祥寺の街中で、しかも屋外で実施する形なので、僕らも試しながらのところがいろいろありますけれども、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。

 最初に、BeYond Labのことをご紹介させていただきたいと思います。僕らBeYond Labは、この会場にいる中西と共に武蔵野市内で始めまして、今年12月で3周年を迎えます。これまで朝活を中心に活動してきまして、オンラインも含め、40回以上開催したトークイベントなどを通じて、延べ1000名以上の方々に参加していただいた“学びの場”を運営する団体です。

 僕は教育畑の人間なので教育のことを中心に様々なテーマを取り上げきまして、武蔵境の武蔵野プレイスで映画鑑賞会をしたり、吉祥寺のカフェや目の前のコピス吉祥寺さんの空き店舗でイベントをやらせてもらったり、キンシオタニさんという吉祥寺の有名な方にお話いただいたりとか、いろいろな切り口で取り組んでいます。ここ最近はオンラインで行っていましたが、今日は今年2月以来となる久しぶりの実際の場でのイベント開催になります。

 僕らが大事にしているのは“学び合う”ことで、団体名にあるBeYondは“越える”という意味なんですが、それは2つのことを指しています。1つ目は、自分自身を越えることです。本日も、皆さんがこの会に参加することで何か新しいことに気づいたり、新たな出来事に挑戦したりするキッカケになればいいなと思っています。2つ目は、僕は教育家なので、教育現場と実社会との隔たりを越えて繋げていくということです。これらの想いを込めてBeYond Labと名付けました。

 僕らが目指しているのは、会に参加した方がそれぞれ新しい一歩を踏み出せる人になってくれることです。僕らは、これをBeYondアクションと呼んでいまして、参加者と共に僕たち自身もBeYondアクションを継続できる人でありたいと思っています。僕は小学校教員なんですけれども、日々の教員という仕事を通じて、大人が輝けば子供たちも輝くことを実感しています。だからこそ、未来を生きる子どもたちのために、まず大人たちが自分の人生を楽しむという視点を持つことが大事だと思っています。

 僕には8歳と6歳の娘がいまして慌ただしく毎日を過ごしているのですが、日々の子育てをしながらでも人生の大事なテーマである「学び」を諦めずに、自分の身近な場所でそれを大切にして生きていきたいと思っています。僕の地元である吉祥寺には学びに関するイベントが少ないので、BeYond Labとしての取組みを続けることに価値を感じています。本日のように街の中心でできる機会はなかなかないですが、少しでも学び合いの機会が増え、街に広がっていけば良いと願っています。

ご当地かるたがなぜまちづくりにぴったりなのか

二川

本日のトークイベントですが、最初に「吉祥寺かるた」の徳永さんにお話いただき、次に「寶船」の米澤さんにお話いただきまして、最後、僕も加わって3人でのクロストークを予定しています。トークの合間でとなりの方とお話ししたり、登壇者へ質問もしたりしていただけたら嬉しいです。

 それでは、クラウドボックス代表取締役の徳永健さん、宜しくお願いいたします。皆さん、盛大な拍手でお迎えください。(拍手)

代筆屋自身が書いたまちへのラブレター

徳永

日曜日のお忙しい中、お集まりいただきまして、本当にありがとうございます。「吉祥寺かるた」を企画制作した徳永と申します。これから吉祥寺かるたのお話をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 まず、今日は初めてお会いする方ばかりだと思いますので、簡単に自己紹介させていただきます。肩書が2つありまして、1つ目は、株式会社クラウドボックスという吉祥寺に事務所を構えるデザイン事務所の代表をしております。クリエーティブディレクターなんていう格好いい名称もついているのですが、私たちは自分たちのことを“ラブレターの代筆屋”なんて呼んでいます。デザインという仕事は、伝えたい相手がいるんだけれども、どう伝えていいか分からないという人のために、その人に成り代わって表現をして伝えるという役割がありまして、これってラブレターの代筆みたいな仕事だよねという意味合いでそのように名乗っています。

 もう一つの肩書が、吉祥寺かるた制作委員会の代表ということで、今は名刺に“ご当地かるたプロデューサー”という、おそらく日本で1人しかいない肩書を名乗っています。

 今日はまちづくりのイベントということで「なぜご当地かるたは、まちづくり・地域活性にぴったりなのか」というテーマでお話したいと思います。おそらく、まだ世の中にはご当地かるたが地域活性にぴったりだと気づいている人はほとんどいないと思うのですが、取り組んできた過程で僕なりに一つの仮説が得られたので、今日はそのことについてお話させていただきます。

 まず、吉祥寺かるたをご存じない方もいらっしゃると思いますので、ざっくりご説明します。端的に言えば、吉祥寺の「ご当地かるた」です。吉祥寺を愛する皆さんからSNSを通じて寄せられた、300以上集まった吉祥寺の魅力、吉祥寺の名所や名物、吉祥寺あるあるなどをもとにして創り上げたものです。本当に吉祥寺愛にあふれた内容となっていますので、まだご覧になっていない方は、ぜひこの機会に個性あふれる札の数々をご覧いただければ嬉しいです。

 読み札をいくつかご紹介します。例えば、「あ」の札は「赤いシマシマみっけ!」という、吉祥寺をよくご存じの方だったら、「ああ、あの人ね」と何となく思いついてくれるかと思います。「楳図かずおさん、出現率高し」ということで、ここに赤いシマシマのもじゃもじゃ頭のおじさんが立っていて、緑の服を着たおばさんが「みっけ!」とやっているみたいな札です。

 「い」の札は「いせやのお兄さん、息できてるの?」です。いせやというかなり有名な老舗の焼鳥屋のことです。多くのガイドブックで紹介されているんですけれども、紹介のされ方というと焼鳥の写真か、瓦屋根のあるちょっと個性的な外観のものか、どちらかの写真ばかりになってしまう中で、「いせやのお兄さん、息できてるの?」という切り口で紹介するのが吉祥寺かるたのスタンスです。一応ご存知ない方のためにお見せしますと、このぐらい息ができていない感じ(笑)。もうお兄さんの姿が見えないという、その場にいる人のちょっとユーモラスな目線で創っていったものが吉祥寺かるたなんです。

 このかるたを作ろうとなったときに、成し遂げたいと思っていたことが2つありました。1つ目は、自分たちのラブレターを届けるということです。これは、先ほどラブレターの代筆屋と名乗りましたけれども、吉祥寺に事務所を移して去年がちょうど10周年でした。吉祥寺のデザイン会社として10年間やってきた中で、何か自分たちのラブレターを作ろうよという話が社内から出まして、それなら吉祥寺へのラブレターを形にしようということになりました。実際に吉祥寺かるたを世に送り出すことが出来たので、1つ目の目標は達成できたと思っています。

 もう1つは、ガイドブックには載っていない吉祥寺の生きた魅力を届けたいということです。吉祥寺は「住みたいまちナンバーワン」と呼ばれるようになって10年以上経っていて知名度は全国区だと思います。実際に訪れたことがなくても、おしゃれなカフェや雑貨屋さんがたくさんあって、有名な井の頭公園があることぐらいは知られていると思いますが、もっと生きた吉祥寺の魅力を届けたいという想いがあって、それを2つ目の目標としました。

 かるたを制作して間もなく1年が経ちますけれども、本当に試行錯誤しながらやってきた中で、これは大事にしてきたなと思うことが3つあります。それが「みんなで創る」「面白がる」「愛を込める」ということです。

みんなで創る・面白がる・愛を込める

徳永

 「みんなで創る」というのは、とにかく参入障壁を低くしようということです。もともと、かるたという存在自体がとても参入障壁の低いおもちゃだと思っていまして、「今度、吉祥寺のかるたを作ろうと思っています」と一言伝えるだけで、僕が何をしようとしているかみんなが理解してくれるんです。かるたに備わっているこの特徴を、吉祥寺かるたを制作する過程でしっかり活かしたいという考えがありました。

 実際にやったことはSNSでの読み札の募集です。当初は、札に採用された方に賞品を送れるように連絡先を取ったほうが良いと考えていました。しかし、自分たちだけが選ぶ立場ではないと考え直して、ツイッター上でハッシュタグをつけて吉祥寺かるたで投稿してくれたら応募完了というシンプルな扱いにしました。「ハンドル名とネタだけでいいですよ、ネタも一度にいくつ書いてもいいですよ」と参入障壁を低くした結果、応募者自身の目から見た吉祥寺の姿がどんどん投稿されるようになっていきました。

 例えば、「外食は決まっていつもアムリタだ」や「オールのテンションのまま小ざさ機列」、「アトレの地下で微妙に迷子になる」という投稿がありました。これらは「あなただけの実体験だよね」と突っ込みたくなる表現だと思うのですが(笑)、投稿者自身の経験やまちの日常風景の一端が雰囲気として伝わってくる魅力があります。こうしたパーソナルな視点で捉えた吉祥寺のネタが300以上も集まって、その中から形にしていくことができたというのは参入障壁を低くして得られた成果だと思っています。

 2つ目は「面白がる」についてです。かるたを創るというアイデアを人に話したときに言われたのが、役所の助成金や商店からの広告収入を考えた方が良いのではないかということでした。確かに、当初はそうだよなと思ったんですけれども、それをやってしまうと助成金や広告を取るための仕組みに合わせていかなければならなくなり、最初に考えていた自分たちのラブレターを届けるという目的がどこかへ行ってしまうのではないかと思うようになりました。

 ガイドブックから見た吉祥寺ではなく、場の熱量が感じられる生き生きとした吉祥寺の魅力を届けたいという出発点からすると、余計な制約によって面白がることができなくなると考え、それらをやめました。どのネタを札にするか決めるときも、みんなで話し合って何度も会議を開いたのですが、多数決にはしないというのを最初から決めていました。最後は決め切るぞ、とことん面白がるぞという気持ちを大切にして取り組みました。

 最後の「愛を込める」には2つの意味があります。1つは、誰かを“傷つけない”ということです。例えば、「ええじゃないか、関町南も吉祥寺」という札がありまして、練馬区の関町南に住んでいる方が投稿してくれたものです。関連事業としてこの「ええじゃないか、関町南も吉祥寺」Tシャツを販売しているんですが、関町南に住んでいる方がこの遊び心を受け入れてくれて、どんどん買って下さるというすごい現象が起きているんです。

 一方、似たような「立野町はいいけど、関町南は違うだろう」というネタがありました。これはこれで面白いですし、吉祥寺を知っている人同士で話しているときに「立野町はいいけど、関町南は違うだろう」って冗談を飛ばし合うのは面白いと思います。でも、それを吉祥寺かるたにしてしまうと、関町南に住んでいて吉祥寺が大好きという人を、ちょっとしょんぼりした気持ちにさせてしまうかもしれないと思ったのです。誰かを傷つけてしまう笑いの取り方はしないというのは当初から決めていたことです。2つ目の意味は、“パーソナルな偏愛”を大事にすることで、一人一人が見ている多面体としての吉祥寺の風景を届けたいということです。

場の熱量を増幅する装置

徳永

 「こうした3つのことを大事にしながら吉祥寺らしさって何だろうと制作委員会の中で何度も議論して、それらをイラストにしました。僕の考える吉祥寺らしさは、おしゃれなだけじゃない生活感というか、庶民臭さみたいなものともバランスのとれた「気さくなのに、華がある」というところと、「すごく狭いところにあらゆるものが詰まっている」という二つの観点にあると思っています。

 また、新しい文化を発信するチャンスがあるまちという切り口も大事にしたいと思っています。吉祥寺はチェーン店ばかり増えてまちの個性がなくなったと言われることがありますが、「全然そんなことないよ、ちゃんと動いている人間はいくらでもいるぞ」ということをきちんと伝えたいと思っていました。例えば、ハーモニカ横丁の朝市や井の頭公園のアートマーケットで手作りのものを売っている方や、音楽や芸術の分野で風呂ロックのような面白いチャレンジをしている方などが、まちにはたくさんいるよということを吉祥寺かるたに盛り込みたいと思いました。その結果、吉祥寺愛がたくさん集まってきて、ご当地かるたというのは“場の熱量を増幅する装置”であると気づいたのです。

 かるたというゲームは、おそらく日本人のほぼ全員がルールを知っていて、全国どこに行っても「かるたをやろう」と言えば、子供でもおじいちゃんでも手札を並べられる。老若男女の実力差も出にくくて、誰もが楽しめる遊びです。デジタルの時代、インターネットの時代になっているからこそ、リアルな場の価値が問われてくると思いますが、かるたには誰もが気軽に参加できて、やってみたくなる装置として優れた存在ではないかと思っています。

 ご当地かるたは、ガイドブックとしてもとても優秀です。自分たちのまちを46の視点で語るにはかなりの情報量が必要となりますが、かるたという超シンプルなプラットフォームに当てはめれば、多くの情報を違和感なく次々と見てもらえるように仕立てることができます。また、1セットの札に1スポットの情報を、絵札・読み札・解説の3段階で深められる仕組みにできる点も効果的だと思います。

 例えば、「て」の札を見ると、吉祥寺に詳しい人だと「あっ、あそこの街角だ」と分かるんですが、そうでない人には意味が分からない。読み札で「徹夜でようかん」と聞いたところでさらに意味が分からなくなるんですけれども、「徹夜でようかん、何だ、そりゃ」という新しい興味が生まれます。

 このようにゲームとしての魅力とガイドブックとしての魅力を掛け算したものがご当地かるたなんです。勉強でもそうですが、面白がりながら覚えた記憶は定着していくものです。ご当地かるたは、単に遊びとして面白いというところから興味が生まれ、実際の場所にまで興味を持つようにつながっていく装置として、とても優れた存在だと感じています。

愛のらせんを描くプラットフォーム

徳永

 現在、「ゆ」の札だけ内容を変えた吉祥寺かるたの第2版を創り始めています。なぜ、「ゆ」の札だけ変えるのかというと、札に描かれていた「揺られてお昼寝ハンモックカフェ」が閉店してしまったためです。店が無くなってしまうのは残念ですけれども、まちの姿が変わっていくのは当然のことなので、まちの生きた姿を伝えるご当地かるたも変化するまちに合わせて変わっていく必要があると考えています。そうすることで一度きりの商品で終わらずに、まちの新陳代謝と共に変化し、まちの魅力を伝えていくことに役立つのではないかと思っています。

 自分たちには、ご当地かるたがつくる“愛のらせん”という考え方があります。最初に、かるたを創るために札を考えてみてくださいと言われたら、その瞬間に自分だったら何を札にしようかと頭の中で思い浮かべると思うんです。「いつも行っているあの店は、かるたのネタにならないかな」とか、「吉祥寺って、こんなまちだよね」みたいなことを思い出して、札を考えるときに自分の中で地域愛と向き合う時間が生まれます。こうして生まれたネタをSNSに投稿し合うことで皆さんがご覧になれます。

 それが、一等賞や二等賞を決めるためのものだとしたら、勝つか負けるかになってしまいますが、フラットな状態でシェアされていくことによって、「あっ、こんなところを見ている人がいるんだ」という共感や興味が生まれてくるようになります。1つの吉祥寺愛でも、いろいろな角度から見ている人のネタを知ることで、ひとつのファンコミュニティみたいなものが生まれてくることを実感しました。

 実際に吉祥寺かるたで遊ぶ場面では、イベントが行われたり、家族で遊んだり、学校で学習の一環としてやっていただいているところもあります。リアルな場を共有して遊ぶことによって、あるある話で盛り上がったりすると感情までもが共有される。こうした機会は、まさに吉祥寺愛をベースにして起こるファンミーティングそのものなのです。

 次の巻き込むという段階では、かるたで遊ぶ分には吉祥寺を知らないからといって特に不利なこともないので、「吉祥寺に来たことないけど、勝っちゃったよ」みたいなことは普通にあるわけです(笑)。勝っちゃったから「この札の煙もくもくの焼鳥屋、こんなところ本当にあるの」みたいな話になって、そうすると吉祥寺のことをよく知っている人が語り始めるので、「いや、もう、いいから今度一緒に行こうよ」とか、「そこのTシャツも売っているよ」みたいな話が起きたりするわけです。このように吉祥寺を知らなくても参加できるかるたの特徴のおかげで、ファンコミュニティがじわじわ広がっていきます。

 普通はここで終わりなのですが、ここでまた、まちの変化に応じてかるたが進化します。去年、全札を募集したときは全部で300ぐらいのアイデアが集まったのですが、今年「ゆ」という結構ハードルの高い文字を指定したにもかかわらず、40を超える応募がありました。これはかなり多い数字だと思っています。こうして、新しい「ゆ」の札だったら何だろうというように、また一番始めの「自分の中の地域愛に向き合う」段階に戻っていくのです。このように愛のらせんが回っていくことを経験して、かるたは優れた地域活性のプラットフォームになり得ると確信しました。それで、ご当地かるたプロデューサーと名乗って活動しようと決めたんです。

 ご当地かるたは、愛のあるコミュニティの場の熱量を増幅し、活性化するプラットフォームであるというのが、最初に出したお題の「なぜまちづくりにぴったりなのか」というものの答えです。

 僕からの話は以上となります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)

二川

 徳永さん、ありがとうございました。

 僕は徳永さんのかるた大会に参加して、そこで知り合った人と新しい仕事をご一緒したという経験がありまして、かるたをツールにしていろいろな人と関わることができるってとても素晴らしいと思ったことがあるんですが、かるたが地域活性のプラットフォームになるという見方をしたことはなかったので、すごく新鮮でした。

それぞれの個性が発揮されるまちに育てよう

二川

 続いて2人目の方をご紹介します。僕が、こんなにも世界とつながっている人が吉祥寺にいたのかと驚いた「寶船」代表の米澤さんです。本当に熱い方で、世界中を飛び回って活動されているにもかかわらず、吉祥寺への愛がものすごく強くて、ここを拠点に活動されています。本日は、日頃どんなことを考えて取り組んでいらっしゃるのか、ぜひ伺いたくてお呼びしました。

 それでは、皆さん、拍手でお迎えください(拍手)

一人一人が共存する生態系のようなまち「吉祥寺」

米澤

 こんにちは。僕は寶船というプロの阿波踊りグループをやっている米澤と申します。僕らは吉祥寺がある武蔵野市の観光大使もやっていまして、このまちの魅力を世界に伝えるという使命を持って活動しています。

 吉祥寺っていろいろなカルチャーがあるじゃないですか。例えば、漫画やアニメの舞台としてよく登場しますし、漫画家さんが住んでいるとか、ライブハウスがたくさんあるとか、あと演劇とかもありますし、カフェとか公園とか、本当にたくさんの魅力的な物事が雑多にあるまちだと思っています。一方で、この雑多さが魅力的過ぎるせいで、これという一押しのコンテンツが打ち出せてこなかったとも言えるかもしれません。

 それでも僕は、そのこと自体悪いことではないと思っていまして、多様性や雑多なものこそ今の時代に注目されるべきテーマだと捉えています。多様性があって、雑多だということは、人々がいろいろな動機でまちに繰り出している状態にあるということだと思います。それは、まち全体が大きな祭りのようになっている感覚にもつながっていて、様々な要素が点々と無秩序に集まっている吉祥寺というまちの姿が、そこだけでひとつの生態系を形作っているように感じられてとても好きなんですよ。

 僕が吉祥寺を好きになったきっかけは、青春時代に井の頭公園の裏の高校に通っていまして、放課後にずっと遊んでいたからなんです。若い頃、何をするにもこの吉祥寺で過ごしてきて、その後、外の世界に飛び出してみたら、自分たちが思っている以上に「吉祥寺って、よいまちだね」とか、「素敵なまちだね」と言われていることに気づいたんです。

 僕らは、毎年必ず10か国ぐらいに出かけて踊ってきました。パリとか、ニューヨークとか、香港とか、いろいろなところで阿波踊りをパフォーマンスすると、「ジブリが好き」と絶対に言われるんです。あと、マニアックな人だったら「GTO」とか「ろくでなしBLUES」が好きとか、「吉祥寺が住みたいまちナンバーワンと聞いたんですけれども、本当ですか」とかよく聞かれます。これって、吉祥寺は世界の人たちにとても関心をもたれているということなんだと思うのですが、吉祥寺で生活している人は自分たちのまちが素晴らしいということをあまり自覚していないように見えてしまう不思議なまちでもあります。

 これまでは、日本のコンテンツとして際立っている秋葉原や浅草みたいになれるように、僕らが吉祥寺の看板を背負って吉祥寺ブランドを世界に届けたいと思って海外のイベントばかり参加していたんです。二、三年ぐらい前からは、吉祥寺のアトレさんやコピスさん、キラリナさんが開催する地域のイベントにもお声がけいただけるようになってきましたので、これまでとは違った形でちょっとずつこのまちを盛り上げたいと頑張っているところです。

吉祥寺で活動する世界的プロ集団

米澤

 ところで、二川さんがまだ近くにいらっしゃいますが、このままクロストークするのもよいかなと思いまして、いかがでしょうか。

二川

 はい、ぜひ。僕のほうから伺いたいことがあったのですが、よろしいですか。

 僕は、寶船さんのことをもっと知りたいと思っていまして、具体的にここ一、二年の活動や発信としてどんなことをされているか、ぜひ教えていただけますでしょうか。

米澤

 はい。阿波踊りってまちのお祭りとしてお盆の時期に夏祭りで踊るものなんですけれども、僕らはそれを法人化して、ビジネスとして阿波踊りをやっているプログループなんです。様々なまちのお祭りや夏フェスとか、海外のエキスポみたいなイベントに出ています。例えば、海外で行われている一番大きな日本のお祭りと言われている25万人もの人が来場するパリのジャパンエキスポというイベントがあるのですが、これに6年連続でメインステージをやらせてもらっています。そこでは、乃木坂46さんとか、きゃりーぱみゅぱみゅさんといった一流アーティストのステージの後に僕らが出て阿波踊りを披露するというような結構エンタメっぽい感じでやっています。

 あと、僕自身はトークセッションとかもよくやらせてもらっていまして、まさに昨日なんですけれども、Vоicyという音声メディアのイベントで脳科学者の茂木健一郎さんとトークセッションをやってきました。そういう著名な方々と一緒に、カルチャーの話をするといったこともよくやっています。

二川

 先ほどからいろいろな方のお名前が出てきましたけれども、他にもどんな方と共演されていますか。

米澤

 昨年、芸人の岡村隆史さんと夏フェスで共演させてもらいました。最近一番仲がいいのは、オリエンタルラジオの中田さんの弟です。彼は、RADIO FISHという音楽活動もされていて、「PERFECT HUMAN」という曲が有名なんですけれども、オリエンタルラジオ以外の人たちってプロのダンサーなんです。中田さんの弟さんがFISHBOYというプロのダンサーなんですけれども、その方と一緒に全人類を踊らせようという計画を立てて、いろいろなライブをやったり、ダンスワークショップをやったりしています。彼はストリートダンスですが、僕はある意味、日本土着のストリートダンスをやっているという感じですね。あとは、三ツ矢サイダーのCMや本麒麟の発売イベントにも参加させていただいています。

二川

 こんなにも幅広く活動されている方が吉祥寺にいたというのが僕には驚きだったんです。先ほどさらっとおっしゃいましたけれども、プロの阿波踊りグループってどういうものなのでしょうか。

米澤

 「プロって、すごいね」とよく言われるんですが、たしかに阿波踊りだと前例はありません。似たような存在はありまして、例えば、和太鼓グループや津軽三味線の方々には、日本の文化芸能のプロとして世界ツアーをやられている方はたくさんいらっしゃいます。僕の高校の同級生も鼓童というプロの和太鼓グループで世界ツアーをやっているのですが、「太鼓で成立するなら、太鼓と踊りがある阿波踊りはもっと受けるだろう」と思って、法人化して海外ツアーを組んでみたという感じです。それが2012年の出来事で、そこからこつこつ取り組んでいます。

二川

 なるほど。

 先ほどキラリナさんやアトレさんの話題が出ましたが、吉祥寺ではどんなことをされているのですか。

米澤

 お正月のイベントですとか、吉祥寺駅の南北自由通路のところでパフォーマンスをさせていただいたりですとか、あと、まさにこの場所なんですけれども、ゴールデンウイークに開催されたビューティーフェスというイベントにも出させていただきました。

 あと吉祥寺に事務所がありまして、練習もこの辺でやっているものですから、吉祥寺の近くに引っ越してくるメンバーがかなり増えてきました。これからもっとメンバーを増やしていきたいと思っています。

二川

 いろいろと地域貢献されていますね。

米澤

 住民も増やしていますからね(笑)。

フラットなコミュニティで生きる個性

二川

 寶船の特徴のひとつでもあるコミュニティについて、タカラボというサロンのことを教えていただけますか。

米澤

 半分リアル、半分オンラインでコミュニティをつくっていまして、例えば、エンタメとかアーティスト活動に興味がある人たちには、そのノウハウとか、海外のイベントにどうやって出ていったら良いのかみたいな話をしたり、寶船のファンという理由で参加して下さる方には、僕らがお勧めする映画を共有したり、一緒にバーベキューをするような活動をしています。

 このコミュニティの話から少しずつまちづくりの話に移っていきたいと思います。最近よく考えることなんですが、20世紀型の社会はピラミッド構造になっていて、例えば、大企業の経営者やクオリティーの高い洗練された演者のように頂点に立った人がノウハウや芸能を下ろすような、上から下に流れていくような世界観だったと思うのです。

 例えば、たくさんの人が求める有益な情報を握っていたマスメディアには、一般の人では持ち得ない影響力があったと思うのですが、インターネットが台頭して個人同士がつながるようになってくると、そこでやりとりされる情報の価値が大きく変わってきて、これまでのような上から下へという構造ではなく、フラットな関係性が重視されるようになると思うんです。

 僕らを応援してくれる理由も、踊りがうまいからそれを教えて欲しいということではなく、「あなたの考えていることが素敵だから」とか、「知り合いが出ているエンタメだから応援しに行こう」とか、そういう動機づけになってくる。つまり、商品そのもののクオリティーという価値判断ではなく、どちらかというと共感とか、繋がりが価値を持つ社会に変わってきている気がするんです。そこでは上下関係がなくなって、一人一人の個性が生きるフラットな関係性のコミュニティ化が進んでいくと思っています。

 僕たちが暮らしてきたこれまでの社会は、同じ種類で、真っすぐな木しか生えていない人工樹林のようなもので、そこではほかの木は雑草とみなしてなるべく切ろうという考え方しかできなかったのだと思います。これからの社会は、生き生きとした生態系を育むジャングルのように、雑草の一つにも何かしらの意味を見出して、そこに動物や昆虫が集まってくるような、そんな世界の方が暮らしやすいと思うんです。

 そんなことが最近とても気になっていて、阿波踊りも同じかもしれないなと。一人一人が違う思考を持っているとしたら、軍隊型よりは、全員がばらばらな個性を活かしたアメコミのアベンジャーズ型のようになっていったほうが良いと感じています。

 こうした考え方は、まちづくりにも当てはまるのではないでしょうか。

 まちには、規律があって秩序が守られているという状態が普通で、知らず知らずのうちに私たちの意識や行動は制限されているのだと思います。そうした規律や秩序が少しずつまちに溶けていって、人の気持ちと現実がうまく融合できるようなまちづくりのやり方を模索していけると良いのかもしれません。そのための機能やきっかけづくりとして、イベントとかお祭りを活かしていけるんじゃないかと感じています。

二川

 近年、個が大事だと言われるようになってきていますが、どうやって個を強くしていくか、米澤さんの生き方にヒントがあるように感じています。ここまで振り切っていらっしゃる方は少ないと思います。米澤さんが大切にされていることで何かありますか。

米澤

 芸能の分野ではオリジナリティーがとても大事なんですが、以前、すごく有名なミュージシャンの方にオリジナリティーをどうやって出すのか聞いたことがあるんです。そうしたら「人に出会うしかない。もし仮に、世の中に自分1人しかいなければ自分という言葉は生まれなかったんじゃないか。」とおっしゃったんです。人に会うことで、良い意味でも悪い意味で人との差ができますよね、その差を他人から見たら個性だと感じる。自分自身で個性を見つけるのは難しくて、客観視ができない。だから、人から言われて気づく自分を広げていくことが大事で、より多くの人と出会うことで人生をかけて自分自身の全体像がみえてくるのだと思います。

無駄なものがまちを元気にする

米澤

 阿波踊りってもともと商店街で生まれたものなんです。徳島とか高円寺の商店会がお金を出し合って、その資金でお祭りを運営してきたんですね。そんな中でチェーン店が台頭して来ると商店会の運営が厳しくなってくる。今年は、特にコロナの影響もありますし、お祭りをやるからお金を集めましょうと言ってもなかなかそれができなくなっています。

 まちが活性化するには、まちを訪れたときに予定外の何かを買いたくなるようなデザインを、まちに施すことがとても大事だと思っています。単純にものを買うだけならウォルマートやイケアに行ったほうが便利だし、もっと言うとアマゾンでいいんです。だからこそ、まちに来る理由が日常生活のための目的買いだけでなく、いわゆる不要不急と呼ばれている一見すると無駄なところに価値があるんじゃないかなと思っているんです。

 阿波踊りって無駄なんですよ。だって、恥かいて踊るって、ほとんどの人類にとっていらないじゃないですか(笑)。でも、いらないものであふれているまちのほうが、人はなぜか満足して、お金も落としてくれるんじゃないかと思うんです。

二川

 なるほど。変な話ですが、このイベントもいらないかもしれないですね(笑)。

 無駄なものにこそ価値がある。たしかに、僕らはコロナで散々そういうものを失って、家で最低限の生活を強いられてきました。その経験から、まちの意味や人と関わることの大切さを、改めて強く感じました。

自分の好きを表現できるまちに

二川

 米澤さんは、発信することでたくさんの人に出会っていると思うのですが、発信する際に大切にされていることや、発信していてよかったなということはありますか。

米澤

 最近、僕が思っていることは「自慢」についてなんです。自慢するやつは嫌だという風潮があるじゃないですか、でも、自慢って実は大事なことなんじゃないかと思ってきたんです。「本当に自分が愛するものは自慢していいんだよ、その代わり、その話を聞いたときに相手が喜んでくれるかどうかという視点は持とう」というような他者目線や気づかいができる自慢を続けることが発信なんじゃないかと思うようになりました。

 例えば、グルメブログをやっている人は、料理が美味いから見せたいわけじゃないですか。「めっちゃ美味いからぜひ行って」とか、「この映画面白いから絶対見て、後悔しないよ」みたいなことの連続が、結果的には人を動かす発信力になっていくと思うんです。

二川

 そうですね。何かこれ言っていいのかなとか、どう受け取られるか分からないというときには、相手を大切にして、相手がいかに気持ちよく受け取れるようにするか考えることはとても大事ですよね。

 先ほど徳永さんが話しをされた偏愛もそうでしたが、やはり好きで好きでしようがないものは誰かに薦めたくなりますね。今日のトークショーも「こういう面白い人が話しているから聞いてくださいよ、まちの人、そこに歩いている人」という僕の偏愛を現した場なんです。そういう好きでたまらないことを伝えるのであれば、きっと喜んで聞いてくれるんじゃないかと思うんです。そういう、うそのない好きっていうものが発信なんだなと、とても納得できました。

米澤

 自分の好きなものを表現しにくい世の中は嫌じゃないですか。それを出しやすくするには、おそらく心理的な安全領域が必要だと思うんです。吉祥寺だったら好きなことを言っても大丈夫という場所にできたら良いですよね。その第一歩が「吉祥寺のおいしいお店を教えて」とか、「今度、吉祥寺でお祭りあるらしいけど、行かないか」みたいな働きかけで、それに応えるちょっとした偏愛をシェアして、積み重ねていくことができるまちに吉祥寺がなれたらいいんじゃないかなと思いますね。」

二川

 そうですね。

 買物して終わりじゃなくて、あのお店のあの人に会いたいとか、まちへの意味づけが多彩になるとまちの景色も変わってくると思います。ここにあるコピス吉祥寺のあの「グリーニングしよう」という看板なんですけど、最初は緑のハートだなぐらいにしか思っていなかったんですけれども、その背景をコピス吉祥寺の担当の方に聞いたら、とても共感して一気にコピスファンになっちゃいました。そういう自分の偏愛のお店や場所を多く持つ、また、偏愛の人もですね。そういうのをたくさん持てるようにしていくことが、これからのまちづくりに大切なのかもしれないと思いました。

米澤

 ちょうど時間もきましたので、最後にとっておきのやつを。本日はトークイベントですけれども、せっかくの機会なので、僕らのパフォーマンスをほんのわずかですが、ご覧いただきたいと思います。一瞬ですからね。写真に撮っていただいてもいいですし、心のカメラで撮るだけでもいいので、ぜひ。

 「本当に一瞬で終わっちゃうんで、まずは気持ちよく始められるように大きな拍手をもらいたいんですけれども、いいですか」(拍手)

 「最高、寶船です。どうぞ」

(パフォーマンス披露)

二川

 ありがとうございました。改めて大きな拍手をお願いします(拍手)。久しぶりにこういうのを聞きましたね。奥底から震えを感じて、今でも心臓がどきどきしています。

面白がる力と寛容さが豊かなまちをつくる

目指すコミュニティのかたち

二川

 ここから3人でのクロストークに入ります。

 まずは、改めてコミュニティって大事だなと感じたんですけれども、そのことについて話し合いたいと思います。ここにいる3人は、それぞれコミュニティを持っていますが、吉祥寺にコミュニティを広げていくとか、根づかせていくために今後取り組みたいことはありますか。

徳永

 今、水面下で進行しているのは、かるたというのは46枚で完成形となる表現手法ですけれども、そうじゃなくて増殖していく形の表現ができないかと思案しています。詳細はまだお話しできない段階なんですけれども、参加型でクリエーティブで、それが常に増殖していってトレーディングみたいなことができたら面白いんじゃないかとイメージしています。

 コミュニティという視点で捉えると、1つの達成すべき目的があって、何らかのゴールを設定してそこに向かって進んでいくという考え方ではなく、意義に共感した人が集まってきて、その場の雰囲気やあり方がすてきだよねと感じられて、そこに自分もいられる喜びが広がっていく姿が理想だと思うので、自分だったらこういうふうに乗っかろうかなと思えるような対象を創れたら良いと考えています。

米澤

 妄想段階なんですが、今はコロナのことがあってなかなかリアルイベントがやりづらいんですけれども、社会情勢が好転してきたら、それこそ何か雑多なお祭りを吉祥寺でやってみたいと思ってます。

 先ほど話したようにいろいろな魅力が集まるイメージで、例えば、目の前の元町通りは、時間帯によっては車も通らずとても良い立地じゃないですか。ここで、阿波踊りやダンス、音楽演奏、レッドカーペットを敷いてファッションショーみたいなものをやってみるとか、まちに集まる才能とか、人前で何かしたいという若い才能の卵みたいな人を集めたイベントができたら良いと思っています。

まちと共に成長するために大人がすべきこと

二川

 僕は、今回のようにまちに買物に来た人とか、たまたま訪れた人がどんどんつながることができるオープンな場がまちの中にもっと増えたら良いと思っているので、先ほどの徳永さんのお話にあった「まちと一緒に成長していく」という言葉がとても良い響きだなと感じていました。

 今は、吉祥寺のまちもコロナで大変ですが、これから良くなってきて、きっとまた成長していくと思っていますし、そういう余白があるまちだと思うんです。僕は、まちと一緒に成長していくために僕らに何ができるだろうということを考えたくて、大人にも学びの機会が必要だと思ってこういう場を開催しているんです。学ぶことによって自分が豊かになり、それをまちに還元していくとか、誰かの役に立ちたいとか、そういうようにつながっていくんじゃないかと思っています。

 お二人は、まちと一緒に成長していくために、大人がすべきことって何だと思われますか。

徳永

 僕は、場の熱量をいかに生み出すかが大事だと思っています。みんなが来たくなる場の熱って何だろうとか、まちの活性って何だろうと思ったときに最初に思いつくのは「面白がっているかどうか」というところなんです。「面白そうな連中が、面白そうなことをすごく面白そうにやっているぞ」となったら、そこに自分も乗っかりたいですよね。さらに「何かそこで俺もできないかな」と考える面白好きな人たちがどんどん乗っかってきて増殖していくような、そんなまちになるように取り組むことが大事だと思います。

 例えば、さきほどの阿波踊りのパフォーマンスを見て「すごい」と思ったのは、何か面白そうな人たちが面白そうなことを始めると、その場に強い求心力が生まれるんですよ。その求心力がまちのあちこちで起きてくるように、大人がまちを面白がっている姿をみせることが、未来のまちを育てていくことにつながるんじゃないのかなと思っています。

米澤

 本当に同感です。まちと成長していくのは簡単で、死ぬまで忘れない思い出をそのまちで創ることですね。初デートは吉祥寺だったよとか、何でもいいから死ぬときに覚えている吉祥寺の思い出があることがとても大事だと思うんですよ。それをある程度設計することはまち側にもできるけれども、そのときにどんな思い出をつくるかは皆さん次第です。

 最終的にすてきな思い出をそこでつくろうと思って本気でわくわくできる、予定に書き込める何かをつくれたら、まちは発展するんじゃないかなと、一緒に年を取っていけるんじゃないかなと思います。

二川

 そうですね。僕も初デートは吉祥寺だったことを思い出しました(笑)。妻ともよくここに来ていたので、本当に切っても切り離せないまちなんです。僕はこのまちで成長させてもらったと感じているからまちに貢献したいと思うし、まちと自分が相互補完の関係性になっていくと良いのかもしれないと、話を聞いていて思いました。

徳永

 先ほどの米澤さんのお話にあった同じものだけを植林する人工樹林ではなくて、豊かな生態系を許容するというのは大人の役目ですよね。そこで勝手に自分の花を咲かせていいよという雑木林状態をつくってあげることはとても大事だと思います。

 ここのコピス吉祥寺という名前を最初に聞いたときに、「コピス」という響きがかわいいから適当につけた名前だと勝手に思っていたんですけれども(笑)、後から「雑木林」という意味だと聞いて、とても良いネーミングだと思ったんですよね。雑木林状態がこのまちにはあるよという空気をつくってあげるのは大人の役目だと思います。

米澤

 たしかに、そうですね。

寛容なまちの空気が新たな芽を育てる

二川

 まちを歩いている子どもの姿が多いのは吉祥寺の良いところの一つだと思うんです。僕らよりもずっと長く吉祥寺に関わっていく子供たちにどういうまちをつくってあげるのが良いのでしょうか。子供のためのまちづくりという視点で何かお考えがあれば教えてください。

米澤

 いろいろな世界のまちを訪れてわかったのは、活気あるまちや経済的に発展しているまちは、共通してうるさいことです。うるささって大事だなと思っていて、さっき受け入れるという話がありましたが、子供が泣いたときや、子供が走り回っているときに、危ないところはちゃんとフォローしなきゃいけないけれども、「はしゃいで伸び伸びとしていいよ」と子どものエネルギーを抑え込まないまちづくりが出来たらいいなと思います。

 不本意ですけれども、どうしても我慢させるように世の中の仕組みができているので、マナーはありつつも伸び伸びできるまちにしたい。そうすると、ある程度の年齢になって成長の段階になると、声がうるさいとか単に騒がしいといったこととは違って、自分のやりたいことを思い切りやっていいんだという方向にシフトしていくと思うんです。例えば、絵が大好きだったら吉祥寺のまちで漫画家になったり、歌が大好きだったらミュージシャンになっていいんだと思えるようなことです。

 大きな意味でにぎやかさとか、うるささを寛容に受け止められるまちづくりが子供にとってはいいんじゃないかなと思います。

二川

 吉祥寺には伸び代があると思いますか。

米澤

 僕が吉祥寺が大好きなのは、すごく伸び伸びできると感じられる部分が多いからなんです。ただビジネスの観点でまちのことを考え過ぎてしまうと、弱者に対して何となく排他的になっていく可能性があるかもしれなくて、そこは気になります。もちろん社会には様々な事情があるものですが、そういうところで周りの大人が「大丈夫だよ、はしゃいでもいいよ」と少しずつ寛容な空気をつくってあげられる、そんな大人たちが集まるまちになれば良いと思いますね。

二川

 ありがとうございます。徳永さんはいかがですか。

徳永

 自分の子供が学校へ行けない時期があって「学校へ行けないんだったらうちの会社に来たらいいよ」といって僕の会社に来ていたことがあるんです。会社には、漫画家が出入りしていたり、「本当に働いているのかな、この人たち」みたいな感じのデザイナーがうろうろしていたり、昼間からゲームやっているやつがいたり(笑)、そういう環境でこんな大人もいていいんだというのを見せてあげられたことはよかったかなと思っています。

 あと、先ほどのノイズを許容するみたいな空気づくりは、本当にその通りだなと思いました。昨年、仕事で接点ができたある小学校の開校式に呼んでいただいて、見に行ってきたんです。その学校はちょっと変わっていて、先生が壇上に立たずに体育館をフラットに使って、親も子も一緒にぼやっと円になって座ってお話しているんです。そんな時、生徒がちょろちょろと走っていたりするのですが、先生は誰も叱らないんです。

 子供たちが、自分の興味を持ったことを自分で掘り起こして学びを進めていくのを良しとする習慣になっていて、だから自由な行動を制限しないらしいのです。先生側からみると、組織を統括するのはとんでもなく大変だと思いますが、こうした環境をつくろうとチャレンジしているのはすごいことだなと感心しました。

 それをまちでやるにはどうしたらいいのかなと。もちろん今は答えを持っていないんですけれども、自由に学んでいいんだと許容する空気を醸成することができたら、すてきだなと思います。

面白がる力を育てるために

二川

 僕もまちを使って学びがもっとできればいいなと思っていて、最初この会を企画したときに、トークイベントの会場の隣に駄菓子屋さんをつくりたいと思っていたんです。駄菓子屋さんの店員は子どもで、仕入れも子ども、子どもたちにお金の扱いまで任せるようなまちを使って授業ができたら面白いとずっと思っています。もし、そうした機会を積み重ねることができれば、子どもたちから見えるまちの景色は絶対に変わってくると思うんですよね。

 先ほどのコピス吉祥寺の話もそうですけれども、吉祥寺に来ると自然と思い出されることがあって、去年9月のラグビーワールドカップの開幕戦のときに、それをみんなで見たいと思ってサンロードのdizzleさんというお店でイベントを企画したんです。僕はあの日の感動が今も忘れられなくて、吉祥寺でカフェといえば真っ先にこのお店のことが頭に浮かぶんです。こういうことを繰り返してまちとの関わりが豊かになっていくのだと思います。子どもたちにもまちとのつながりが感じられる経験を味わってもらいたいので、いつか子どもたちに向けた企画をやりたいと思っています。

 あと、今日のお二人に共通しているのは「面白がる力」のすごさなんです。僕が子どもに一番身につけさせたいのは、この力なんです。言い換えると、わくわくする力というか、やってみたいとか挑戦したいと思う力のことなんですけれども、これについて米澤さんはどう思われますか。

米澤

 自分自身が素直に楽しいと思うことを面白がるのと、怖がりだからこそ面白がれるようになったという2つの観点があるのかなと思うんです。1つ目の面白がるは分かりやすいですし、現代社会ですでに注目されている考え方ですね。

 もう一方はあまり聞いたことがないと思います。僕が皆さんのことをまだ良く知らない段階だとして、せっかく会ったこの人たちと一緒に何かできるかもしれないと感じたとき、それがどんな内容になるかは分からなくても、チャンスそのものを失うことを怖がって関係づくりを優先する。そんな状況を「どうなるか分かりませんがやってみましょう」と面白がれることも大事な発想ではないかと思っています。

二川

 なるほど、ありがとうございます。徳永さんはいかがですか。

徳永

 自分の中で面白がる気持ちが育ったのは、自分が面白いと思うものを否定されなかった経験というのが大きいと思います。学校ですごい駄目出しをされてへこんで持ち帰ってきた作文を母親が褒めてくれたことで、あっちで不正解だと言われても、こっちでは正解ということもあるんだと割と小さい頃から気づくことができていました。

 今、本当に正解のない時代と言われていますね。先日、母校の都立西高の高校生と会ったときに「悩みは、勉強しかできないことです。このままいったら多分僕は東大に行くと思うんです。でも、その先が見つからないんです」と言われてとても驚きました。でも、「カレーとラーメンどっちが食べたいの」と聞いたら「どちらかと言われればカレーです」という判断はできるわけです。「いや、そんなはずはない、君はラーメンが食べたいんだ」とほかの人には絶対言えなくて、自分にとってどちらがいい匂いがするかはちゃんと選べている。

 「ほんの少しでもいいから、自分がいい匂いがすると感じる方をちゃんと感じて、選び続けていけば、いつかは自分にとってすごくいい匂いに満たされた場所にいけるかもしれない」と考えることが大事なのだと思います。

米澤

 なるほど、良い話ですね。先ほどの関係づくりを壊したくないという話は、おそらく出会った瞬間に「この方々だったら、匂いとして面白いことが起きそう」みたいな嗅覚が働いているのかもしれないです。

徳永

 なるほど。

吉祥寺の魅力をもっと語るために

二川

 先ほどの米澤さんの話で、富士山に登っている人の話がありましたが、吉祥寺は「住みたいまちナンバーワン」とずっと言われてきていたのに、中にいる人たちは、ここがどれだけ良いまちなのかを言語化できていない気がしています。それを語れることが実は暮らしを豊かにしたり、まちづくりにつながるかもしれないと思っているんですけれども、吉祥寺の良さを自覚して語れるために何が必要なのかをお二人に聞いてみたいのですが、いかがでしょうか。

徳永

 先ほどの米澤さんの話を聞いていて、とても羨ましかったのは、僕らは吉祥寺かるたは創ったんですけれども、まだ吉祥寺のものしか創っていないので、僕はほかのまちのかるたを手掛けたいです。そうすることで、吉祥寺かるたの良さや、なぜ吉祥寺かるたがこの形になったのかという、その山の形が見えてくるんじゃないかと思っています。そういう考えもあってご当地かるたプロデューサーという肩書をつけて、他のまちからのお声がけを待っている状態なんです。なので、外から見ている米澤さんの話を伺いたいですね。

米澤

 吉祥寺のまちをもっと好きになるにはということですよね、住みたいまちナンバーワンと言われますが。あれは、結局メディアが作ったイメージじゃないですか。吉祥寺は住みたいまちナンバーワンとか、ランキングが下がった云々じゃなくて、何のまちナンバーワンにしたいかというのを自分で決めちゃえばいいんじゃないかと思ったんですよ。

 例えば、お祭りに興味がない人がいるかもしれないですけれども、僕らにとってはお祭りのまちナンバーワンにしようと決めました。それは、ご当地かるたのまちナンバーワンでも、BeYond Labさんだったら、いろいろな人と語り合えるまちナンバーワンにしようとか、人それぞれのコンセプトでナンバーワンを目指した方が良いということです。

青空の下で語り合って

二川

 僕は人との対話がとても好きで、こういう熱苦しい会話ができる関係ってものすごく豊かだと思うんですね。ふだん仕事と家庭の往復だけだとなかなか熱い話をする機会がなくて、仕事の縦とか、家族や友人との横でもない人たちと、どれだけつながれるかということがまちを豊かにすると思っています。このような人との関係を、僕は「斜めの関係」と呼んでいます。そういう人とは利害関係がないから本音を言えたり、悩みが相談できたりとか、面白いことを一緒にできたりします。近年、「関係人口※」が注目されていますけれども、そういう人たちがまちに増えていくことがまちづくりにつながるのかなと、話を聞いていて思いました。

 最後になりますが、学びってすごく楽しいものですね。学校だけでなく、死ぬまで学びなので、一生涯学び続けたい。僕は、これからもいろいろな人に会って、いろいろなことを教えてもらいたいですし、成長し続けたいと思っています。この気持ちは、きっと100歳になっても変わらないと思うのです。

 これからの社会では、誰にとっても生涯学ぶ力が大切になると思います。僕は、学びで人とつながって、学びが人やまちを豊かにすると信じています。だから、これからも今回のような機会をつくっていきたいと思います。皆さんも、ぜひまた参加していただけたら嬉しいです。お二人からも、最後にメッセージをお願いします。

徳永

 今日はありがとうございました。本当に楽しかったです。米澤さんの話を聞いていて楽しかったですし、皆さんが聞いてくださるこの環境にいられたことがすごく幸せな時間でした。吉祥寺とこういうふうに関われたことが、このかるたを創って送ったラブレターに対してちょっと返事が来たかなという感覚があって、とても嬉しい時間でした。

 これからも自分のラブレターをどんどん送り続けていきたいと思いますので、ちょこちょこ返事を下さったら嬉しいです。ありがとうございました。

米澤

 今日はありがとうございました。僕は踊りの人なんですけれども、こうやってまちづくりに関する話なんかもできて、踊っている人って何を考えているのか、ちょっと知っていただける機会になったかなと思うんです。

 今、コロナ禍でソーシャルディスタンスを保ちましょうといって、なかなか人と触れ合える機会ってないと思うんですが、今の時代はすごく便利なツールとしてSNSとかいろいろあリますので、ぜひまたお会いできるように、皆さんとつながれたらいいなと思っています。心のソーシャルディスタンスはなしでいきましょう(笑)。もしよかったら、BeYond Labさんも、吉祥寺かるたさんも、寶船も検索してみたり、お手元のパンフレットを見て興味を持ってくださった方は、これからも応援していただけたら嬉しいです。運営の皆さんもありがとうございました。

二川

 最後に、お二人に、ここでもう一度盛大な拍手をお願いします(拍手)

 本日はありがとうございました。

※注釈 関係人口 移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉

編集後記

 トークの中で「無駄なものに価値がある」という話がありましたが、今の時代にまちづくりは必要なものでしょうか。それとも、無駄なものでしょうか。

 今回の青空サロンは、withコロナにおけるまちづくり啓発プロジェクトとして、街中に「交流」の場を創り出そうとした試みです。新型コロナウイルス感染症が世界的に流行した2020年の春は、私自身も移動制限によって一変した生活に利便性を感じた側面もありましたが、やはり人に会えない暮らしに寂しさを感じました。今回の取り組みを終え、あの時あの場所に生まれた交流が都市の本質的な価値であり、魅力だったのだと改めて感じています。そして、withコロナ時代の暮らしを模索しているこのタイミングで実施できたことに、とても意味があったと考えています。

 今回登壇された3人は、普段から「まちづくり」を意識して活動しているわけではありません。しかしながら、それぞれが大切にしている想いを体現した個々の活動は、確かにこのまちでの暮らしを豊かにしており、そんな彼らの言葉はまちづくりを仕事とする私の心に響くものがありました。

 あの青空の下で私自身が考えたまちづくりとは、「人々が楽しみながら自分の好きを表現して積み重ねていくことを許容する地域を、まちに関わる人々が共に創っていくこと」です。その第一歩は、今回登壇された3名のように、自身の活動の延長でまちを意識できる人たちが楽しみながら活動していくことなのかもしれません。

 (編集 一般財団法人武蔵野市開発公社 西山)